私にとっての2021年は『更級日記』を原作とし、聴かれる日付・時間を限定した20作の連作で構成されるオンラインシリーズ『月に惑ふ』に専念した一年だった。それまではホールで聴かれる時間体験の組み立てが主な関心だったが、コンサートを前提とせず、想定できない外的な環境音や出力媒体(オンライン配信では聴き手のスピーカーを指定できない)を想像しながら制作することは新しい経験になった。そして今まで自分が想定していた音楽の環境やそこでの時間がいかに限定的なものだったのかについて気付かされた。
本年、コンサートホールで聴かれることを想定した作品を数作品書いたが、どの作品にもやはりオンライン作品の経験の影響が顕著に現れていることを自覚せざるを得ない。
この作品では薄明を経て暗さを増していく黄昏の時間帯、そして深夜の北天を描いた2つの小品からなっており、間に「月」と題されたinterludeが挟まれる。
「北天の子守唄」と題された第2曲は北極星を尾に携えたこぐま座、その周りを回るおおぐま座の親子の子守唄として書かれた。コンサートホールを取り戻したあとどのような時間がそこで聴かれるべきなのか、自分にとっての北極星を探すきっかけにしたい。
(初演解説文)
初演:
2021.11.30 @近江楽堂
丁仁愛 (fl) 佐藤紀雄 (gt)