芦のかりね(2015)

sop, bass cl.

11'


百人一首第八十八首である皇嘉門院別当の和歌と、それを現代詩に翻案した宗左近のテクストに拠る。二名の演奏者は単なる歌手、器楽の役割を越えて、それぞれテクスト中の女性、男性の役柄が当てはめられている。すなわち、この作品は歌曲作品でありながらも一種のシアターピース的な作品として構想されており、それに応じた演出が指定されている。

 

 テクスト自体は平安末期の大阪湾にて、一夜の契りを遂げた行きずりの男を忘れられない女性が主人公として描かれているが、本作では女性(ソプラノ)がその翌朝に一晩の出来事を回想しつつ、もはやその場にいない男性への思いを独白、現実と幻影が錯綜していくさまが展開されていく。

 

 和歌をテクストとする冒頭の女声ソロは、その後の全曲の構成を示唆する内容となっており、和歌の韻文構造がこの部分をもってそのまま現代詩の構成、また音楽の構成(時間構造・音高構造)に適応される。

 現代詩のテクストの第1~3連、第4~6連がそれぞれ過去形、現在形で書き分けられていることを象徴するかのように音楽も前後半で二分されるが、その前半部分ではさらにテクスト(「コトバ」)の部分とヴォカリーズ(「母音のみ」)の部分という、2つの時間軸が設定され、両者の間隔が徐々に近づいていく。ここでの2つの時間軸は、翌朝の女性の独白シーンと、一晩の男女の描写シーンであり、後者は過去に戻る回想シーンの時間として挿入される構造になっている。

 後半部分ではその2つの時間軸の要素が同じテンポのなかで入り乱れる。現在形で書かれ、急に現実味を帯びたテクストは、音楽を切迫させ、クライマックスへと迫っていく。

(再演時解説文)

 

公開初演:

2016.5.29 @台東区生涯学習センターミレニアムホール

太田真紀 (voice) 菊池秀夫 (bass cl)