杜のうた (2017)

Voice (Baritone) and Harp/Piano

 

1. 発見

2. 海水浴

3. 或る風に寄せて 

4. 星の美しい村 

5. 祖母

6. さよならの城 

7. 目に見えぬ詩集

 

この歌曲集は濵野杜輝氏によって選ばれた7つの詩に私が音楽を書くことによって完成されたもので、彼と私による共作と言って良い位置付けの作品である。

書いた詩人も、時代も、もちろん作風も異なる 7 つの詩は、ある種のストーリー性をもって組み立てられている。これは、濵野氏と私が 3 年前より取り組んでいる演奏楽団「季」のプログラムにおいて、既存の歌曲作品を一つのストーリー上に並べるという構成法を継承するものである。

このように異なったスタイルで組み立てられた 7 つの詩に対して、今回私はそれぞれの詩に沿って作風を変える作曲を行った。多様な詩のスタイルに対して、いわば音楽の作風を構成する作曲である。

濵野氏によるこの作品の構成は、両端の谷川作品において「人生は美しい詩に溢れている」と気づかせ、その間の 5 曲では色々なことを「発見」し、色々なものを「目に」する、人生における美しい 1 日(おそらく子ども時代)を歌う。第 2 曲から第 5 曲への流れは昼から夜へ向かう時間経過を含んでおり、とある 1 日の流れは、私たちの一生を表してもいるのだろう。第 6 曲では、「さよならだけが人生ならば」と反語的に、美しかった人生(=1 日)を振り返る。

そういった時間の流れを含んでいる構成であるにもかかわらず、この 7 つの詩にはシンメトリ ックな要素が含まれている。それはそれぞれの詩の構成にあらわれている。第 1 曲と第 7 曲では 同じ谷川俊太郎の詩による問いと答えのような詩、第 2 曲と第 6 曲は同じリズムを繰り返す、有節歌曲的な詩。さらに第 3 曲と第 5 曲は立原道造と三好達治という 2 人の、ほぼ同時期に作られ たと思われる音楽的な響きを持つ詩(特に第 3 曲はソネット形式で書かれている)。独立する第 4 曲 は散文調でありながらも独特なリズムを生む、完結した物語を内包する詩。

濵野氏の構成に対する解説文のようになってしまったが、歌曲の作曲は、詩の解釈であると思っている。つまり、こういった構成やストーリー性を文字から音楽へとあぶり出すことこそが、今回私が作曲する上で一番の課題であったということである。

 

なにはともあれ、少しでも皆様の人生における大事な 1 日にほんの少しでも彩りを加えることができたならば、作曲者としてそれ以上の幸せはない。

(2017年初演時解説文)

初演:

2017.7.28 @ロゴバ(平河町)

濱野杜輝(Baritone) 太田咲耶(hrp)

平河町ミュージックス第44回  杜のうた ~ハープとバリトンで紡ぐ僕らの物語~

 

ピアノ版初演2018年

ピアノ版改定初演2020.2.29 @崔如琢美術館(伊東市)

濱野杜輝(Baritone) 藤川大晃(pno)