『倭をぐな』による4つの歌(2015)

baritone, piano

8'


バリトンとピアノのための作品。テクストは昭和初期に活躍した国学者・歌人である折口信夫(歌人名:釈迢空)の短歌集、『倭をぐな(やまとをぐな)』に拠っています。この歌集は同性愛者であった折口の愛弟子かつ愛人であった春洋に向けて歌われており、太平洋戦争に徴兵され、硫黄島で戦死した春洋を「倭をぐな=ヤマトタケル」になぞらえています。そこには、心のよりどころであったであろう春洋に対する思い、唯一無二の存在を失った歌人の深い悲しみ、嘆きが歌われ、ただ一人老いを重ねていく苦しみや絶望、虚無感までが感じられます。国学者としての折口の著作からは見えてこない私情が表れていると言ってもいいでしょう。

この作品においては、「うた」は歌人の独白、ピアノはその背景色のような役割が与えられています。これは西洋の伝統的な歌曲の形式、すなわち歌とその伴奏の関係というよりはむしろ、水墨画の風景画とその上方に書いてある詩のような関係に近く、両者はお互いに干渉しないが補完しあう、といった相互関係になっています。

 

一.浜の道 ひたすら白し羽咋(ハクヒ)辺ベへ 人ゆかなくに とほりたりけり

 

二.(前文)

たゝかひのたゞ中にして、

我がために書きし 消息

あはれ たゞ一ひらのふみ―

かずならぬ身と な思ほし―

如何ならむ時を堪へて

生きつゝもいませ とぞ祈る―

 

洋(ワタ)なかの島にたつ子を ま愛(ガナ)しみ、我は撫でたり。大きかしらを

 

三.戦ひに果てにし者よ―。そが家の孤独のものよ―。あはれと仰(オフ)す

 

四.あゝひとり 我は苦しむ。種々(シュジュ)無限(ムゲン)清らを尽す 我が望みゆゑ

 

初演:

2015.3.19 @かつしかシンフォニーヒルズ アイリスホール

濵野杜輝 (Bar)  藤川大晃 (pno)