soprano, fl, 2 箏(2nd 13str/Bass koto)
15'
一、清水へ祇園をよぎる桜月夜
こよひ逢ふ人みなうつくしき
二、なにとなく君に待たるるここちして
出でし花野の夕月夜かな
三、たけの髪をとめ二人に月うすき
今宵しら蓮色まどはずや
四、額ごしに暁の月みる加茂川の
浅水色のみだれ藻染めよ
五、その涙のごふゑにしは持たざりき
さびしの水に見し二十日月
与謝野晶子の歌集『みだれ髪』から「月」にまつわる歌を五首選び、おおよそ夕方から明け方まで徐々に時間が推移していくよう並べた。つまり、作品を通じて一晩を体験する構造が意識されているわけだが、各曲の間にはinterlude(間奏曲)と称して器楽曲が組み込まれる。4曲のinterludeのうち3曲はフルートによるもので、特に最初の2つのinterludeは2021年を通してYouTubeで配信されている『月に惑ふ』(『更級日記』に基づく連作オーディオ作品。)の断片を使っており、作曲者による「月」のイメージが自己引用される。第三のinterludeは伝統的な子守唄『優女(やしょめ)』を下敷きに短歌の構造へ当てはめたもので、二つの箏によって演奏される第四のinterludeとともにソプラノソロの第4曲に重なり合う。夜が深まるころの抽象的な時間感覚を体現するためこのような手法をとっているが、総譜を用いないこのオーバーラッピングは近年「演奏の創造性と記譜の関係」を研究している私の試みでもある。
初演:公演中止によってYouTube上でのオンライン配信へ移行。
2021.5.6 @渋谷区文化総合センター・さくらホール(無観客収録)
末次 琴音 (sop) 森 梓紗(箏)長谷 由香(箏・十七絃)丁 仁愛 (fl)
映像制作 公益財団法人日本伝統文化振興財団